INTRODUCTION

 以前、「ぽえぽえ・・」で
Nano-Riffaquariumの話を書いたが覚えていらっしゃるだろうか?
飼育していた
イボハタゴイソギンチャク Stichodactyla haddoni Saville-Kent, 1893 は、益々濃いブルーになり、絶好調だったのだが、如何せん共生させようと思っていたオレンジクラウンフィッシュ Amphiprion percula Lacepe'de, 1802 が全くイソギンに入らず、少々飽きてしまった。
 そんな折、都内某ショップに、セブ産のパープルのハタゴイソギンチャク 
Stichodactyla gigantea Forsskal, 1775 が入荷し、価格も手頃だったので購入した。
国産の1/3くらいの価格だったので非常に割安。
しかも状態は抜群だった。
 早速水槽に入れると、オレンジクラウンフィッシュ Amphiprion percula 達は喜んでイソギンチャクに入り、フカフカベッドに包まれて、御満悦の様子。
そんな愛くるしい姿を見て、こちらもツイツイ頬が緩んでしまう。
当然、25cmキューブ水槽にイボハタゴイソギンチャク Stichodactyla haddoni を一緒に入れておけるはずもないので、イボハタゴイソギンチャク Stichodactyla haddoni は人に譲ってしまった。
 ところが、ここで非常に拙いことをしてしまった。
実は、イボハタゴイソギンチャク Stichodactyla haddoni を取り出したり、ハタゴイソギンチャク Stichodactyla gigantea
を入れたりする際、コンセントに水がかかると拙いので、ヒーターのコンセントを抜いていた。
Nano-Riffaquariumの海水を抜いたりして作業したので、ヒーターが剥き出しになって、ヒーター空焚きをすると拙いと言うこともあった。
25cmキューブ水槽に100wのヒーターを使っているので、ヒーターは縦に入れている。
海水を抜くと、どうしても剥き出しになってしまうのだ。
それを忘れ、10日ほどそのまま飼育していた。
ある日から、ハタゴイソギンチャク Stichodactyla gigantea がやけに移動と伸縮を繰り返すなぁと思っていたのだが、それから3日ほど経ったある日、帰宅してNano-Riffaquariumを覗き込むと、水槽の水が白濁しているではないか!
ハタゴイソギンチャク Stichodactyla gigantea は力なく口を開ききってしまっているので、諦めて出すことにした。
こうなると、全量換水しか仕方ないな、と作業をしている時に、ヒーターを入れ忘れていたことに気付いたのだ。
とんだ凡ミスである。
しかも、水槽は台所に置いてあるので、ヒーター無しでは深夜の水温は10℃くらいになっていたことだろう。
メタハラが点灯すれば、その水温は25℃くらいにはなるだろうから、その15℃もの水温差についていけなかったのだと思う。


SUBJECT

 イソギンチャクが居なくなったので、以前からやりたかったヤドカリ水槽をやることに決定した。

元々、藻類の掃除用にヨコバサミ属Genus Clibanarius )や一部のサンゴヤドカリ属Genus Calcinus )は入れていたが、完全なヤドカリ水槽・・・しかも美種に限定して入れよう!
ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )を始めとする、深場生息種中心での飼育が良いだろう。
 このヤドカリ専用Nano-Riffaquariumと言うのは、雪風氏が既にやっていて、そのお話を羨ましく思っていたので、その晩のうちに迷いも無く移行する。
普通の大きな水槽では、照明が落ちた後にしか・・・しかもあまり見ることができないゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )も、ヤドカリ専用Nano-Riffaquariumなら観察し放題だ。
水槽は小さいから当然。 レイアウトもシンプルにすれば完璧だ。
そこで、イソギン水槽として使っていたLRの半数を出し、LRはSサイズ3つのみ使うことにした。
藻類の掃除用に入れていたヤドカリ達は一旦全て本水槽に移動。

代わりに、厳選したヤドカリ3匹を本水槽から持ってきた。
まず1匹目は、その時入手したばかりだったチャイロサンゴヤドカリ Calcinus anani Poupin & McLaughlin, 1998
そして、レッドレッグハーミット Paguristes cadenati Forest, 1954アデヤカゼブラヤドカリ Pylopaguropsis speciosa McLaughlin & Haig, 1989 の計3種、其々1匹づつ。
 ← チャイロサンゴヤドカリ Calcinus anani
深場生息のヤドカリは何故か、あまり宿換えをしないような気がする。
サンゴヤドカリ属Genus Calcinus然り、ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis然り。
尤も、サンゴヤドカリ属Genus Calcinus )で深場生息種と言うと、チャイロサンゴヤドカリ Calcinus ananiベニサンゴヤドカリ Calcinus argus Wooster, 1984 くらいなもんだが・・・少なくともウチで飼育している ベニサンゴヤドカリ Calcinus argusは1年飼育して、1度も宿換えをしていない。
まぁ、そんな訳で、Nano-Riffaquariumのような狭い水槽での飼育に向くと言える。
仮に
ユビワサンゴヤドカリ Calcinus elegans H.Milne Edwards, 1836
ユビワサンゴヤドカリレッドタイプ Calcinus cf.? elegans H.Milne Edwards, 1836スベスベサンゴヤドカリ Calcinus laevimanus Randall, 1840 のように他のヤドカリの宿貝を奪いたがる種を入れたら、小さな水槽では困ったことになってしまう。
基本的に大人しい種を入れるつもりなのだから。
で、このチャイロサンゴヤドカリ Calcinus anani 、名前は " 茶色 " だが、中々の美種なのだ。
歩脚は " 茶色 " と言うより " くすんだオレンジ色 " で、薄紫のスポットが入り非常に美しい。
深場ヤドカリらしく、大きな宿貝を背負っているが、実際の甲長は " 並 " と言ったところか。
今回のこのコーナーの特集はあくまでゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )なので、チャイロサンゴヤドカリ Calcinus anani についてはあまり触れないでおく。
後日、改めてサンゴヤドカリ属Genus Calcinus )の特集をやるつもりだ。
 ← ご存知レッドレッグハーミット Paguristes cadenati
" 深場生息種中心の飼育 " と言う趣旨からは大分離れてしまうが、Nano-Riffaquariumでの藻類の掃除役としては最強だと思い、投入。
ヤドカリの殆どは雑食性であるのだが、深場生息種・・・とりわけゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )は肉食・腐肉食に傾倒しているような気がする。
そんな訳でゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisはとても藻類の掃除の役には立ちそうにないから。

それにレッドレッグハーミット Paguristes cadenati のその派手な赤い色彩は、観賞価値も十二分にあると思ったのだ。
 ← そして、メインとなるのがこちら。アデヤカゼブラヤドカリ Pylopaguropsis speciosa だ。
本水槽ではじっくり観察できないこの種も、Nano-Riffaquariumではバッチリ。
その美しさを思う存分堪能できる。
この水槽、思った以上良い!!
こうなると、もう少々ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisが欲しいところだ。

そうこうするうちに、沖縄の某ショップにゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisのヤドカリが大量入荷しているのを発見!!
即、メールを出し、アデヤカゼブラヤドカリ Pylopaguropsis speciosaムラサキゼブラヤドカリ Pylopaguropsis keijii McLaughlin & Haig, 1989 を其々2匹づつ。
そして、今回発注の肝はゼブラヤドカリ属の1種 Pylopaguropsis sp. だ。
この種は、「エビカニガイドブック2 〜久米島の海から〜」(阪急コミュニケーションズ)に載っていた種で、発行当時(と言っても去年の7月だが)に見た瞬間から、いつか入手したいと思っていた種。
しかも、2匹入手することが出来た。
ちなみに、現在記載されているゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )は、以下の通りだ。

List of Species : Genus Pylopaguropsis
学名Scientific Name 記載者名Author 標準和名Japanese Name 通称Common Name 英名English Name
Pylopaguropsis atlantica Wass, 1963
Pylopaguropsis fimbriata McLaughlin & Haig, 1989  ケフサゼブラヤドカリ
Pylopaguropsis furusei Asakura, 2000  フルセゼブラヤドカリ
Pylopaguropsis garciai McLaughlin & Haig, 1989
Pylopaguropsis granulata Asakura, 2000  オオゼブラヤドカリ
Pylopaguropsis keijii McLaughlin & Haig, 1989  ムラサキゼブラヤドカリ
Pylopaguropsis laevispinosa McLaughlin & Haig, 1989  トゲゼブラヤドカリ
Pylopaguropsis lemaitrei Asakura & Paulay, 2003
Pylopaguropsis lewinsohni McLaughlin & Haig, 1988
Pylopaguropsis magnimanus Henderson, 1896
Pylopaguropsis pustulosa McLaughlin & Haig, 1989
Pylopaguropsis speciosa McLaughlin & Haig, 1989  アデヤカゼブラヤドカリ
Pylopaguropsis teevana Boone, 1932
Pylopaguropsis vicina Komai & Osawa, 2004
Pylopaguropsis zebra Henderson, 1893  ゼブラヤドカリ

以上15種が、記載済みのゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )。(2004年3月現在)
ホンヤドカリ上科Superfamily Paguroidea )、ホンヤドカリ科Family Paguridae )の中でも小さなグループと言えるかも知れない。
水色で着色している種は、日本で生息が確認されている種で、全部で8種居る。

聞くところによると、ゼブラヤドカリ属の1種 Pylopaguropsis sp. は近々新種として記載されることが決まっているらしいので、16番目の・・・日本で見ても9番目の生息確認種となる訳だ。
日本を代表する十脚甲殻類の研究者である海の博物館奥野淳兒先生の談。
現在、国立科学博物館大澤正幸先生と共同で記載を進めています。
原稿作成中なので、命名されるのは少し先になりそうです。
との事。
非常に楽しみである。
species list を見て頂ければ解るだろうが、今年記載されたばかりの種も居る。
千葉県立中央博物館
駒井智幸先生国立科学博物館大澤正幸先生が記載した
Pylopaguropsis vicina Komai & Osawa, 2004 である。
P. vicina は屋久島、奄美大島、紀伊半島から採集された標本に基づいて記載された種です。
生息水深は他の種に比べて深く、浅くて50m、最も深いものだと160mオーバーからドレッジ(調査用の底引き網みたいなもの)で採集されています。

以上青字部分奥野淳兒先生談。

ここで、もう1度
ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )の生息深度や外見的特長について確認したい。
ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )は、水深15〜40m位の深場に生息する。
深場と言っても、深海性のヤドカリに比べれば、遥かに生息深度は浅いのだが、中々研究が進んでいなかった生息域と言える。
何故なら、潮間帯に生息するヤドカリは、簡単に素潜りでも採取できるので研究が進んだし、深海性のヤドカリの場合、漁の底引き網
に引っ掛かって揚がってきていたので割りと研究されていたのだ。
ところが、ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )が生息する中層域のヤドカリは、近年ダイビングが盛んになるまで全く手付かずのヤドカリだったのである。
ダイバー人口の増加や、ダイビング器具の飛躍的な進歩により、中層域にも潜ることが可能になり、ようやく日の目を見るようになったヤドカリなのだ。
色彩は、殆どの種が鮮やかな赤系。
これは、赤い色が深い海の底では黒く見えるので、保護色になっているのだろう、と言われている。
ホンヤドカリ上科Superfamily Paguroidea )なので、右鋏脚が大きいのだが、まるで " 鍬 " のような形状で異様に大きい。
歩脚は細く長く、移動速度は割りと早い。

ところで、何故Pylopaguropsisの和名を " ゼブラヤドカリ属 " と呼ぶのか、ふと疑問に思い、
日本のヤドカリ研究の第一人者である千葉県立中央博物館朝倉彰先生に御教授願った。

以下は朝倉彰先生の談。
日本でこのグループが最初に採集されたのは、今でいう Pylopaguropsis zebra で、日本甲殻類学会の三代目の会長の三宅貞祥先生がみつけられました。
ところが当時は、学名が
Pagurus zebra であると考えられていました。 Pagurus とはホンヤドカリ属のことです。
それで三宅貞祥先生は、和名を " ゼブラホンヤドカリ " とされました。これはもちろん種小名の
zebra にちなむものであり、歩脚にゼブラ模様があるからです。
ところが1988年
McLaughlin and Haig は、この種が Pagurus ではなくて、 Alcock1905 により創設された Pylopaguropsis であることを確認し、さらに日本にはこの属に、 P. speciosa アデヤカゼブラヤドカリ)が分布することも見つけました。
これを受けて朝倉彰1995)(保育社の原色検索海岸動物図鑑)は、
Pylopaguropsis Pagurus から独立させ、これがホンヤドカリではなくなったので、ホンヤドカリの「ホン」を取ってゼブラヤドカリ属という新称を与えたわけです。
このように最も典型的な種から属名をとって、それを基本名とし、あとはその属に所属する種を「〜ゼブラヤドカリ」とするやりかたは、三宅貞祥先生が始められた和名のルールです。
ただし最近出たダイバー向けの図鑑をみると依然としてこの種が「ゼブラホンヤドカリ」となっていますが、これはこの「三宅ルール」を無視してしまっているわけで、これはすべてゼブラヤドカリと改めなければなりません。

奥野淳兒先生からも同様の御返事を頂いた。
長い間、 P. zebra はホンヤドカリ属に含まれており、和名はその頃与えられました( " ゼブラホンヤドカリ " が最初の和名です)。
しかし、後にこの仲間は ホンヤドカリ属とは属のレベルで別のグループとされ、属の和名はホンヤドカリ属とは別モノであることを強調するためか、 " ホン " が消え、ゼブラヤドカリ属となりました。
ゼブラは学名の種小名からとったものと思われます。
また、学名のほうの由来は、歩脚と左はさみ脚に見られる、ストライプ模様にちなんだものと思われます。

成る程、確かに「エビカニガイドブック」(TBSブリタニカ)に載っている
Pylopaguropsis zebra (この本ではゼブラホンヤドカリと書かれている)の写真を見ると、濃い赤紫色の歩脚に、白い縦ラインが入っている。
歩脚が縞々模様だから、 " ゼブラ " な訳だ。

我々アクアリストや一般ダイバーにとって
ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )は近年新設されたGenus )のように思ってしまうが、初出は以外に古い。
上の
species list を見て頂ければお解り頂けると思うが、最初に記載されたのはゼブラヤドカリ Pylopaguropsis zebra
Henderson博士 1893年に記載。
Original name は " Eupagurus zebra " であった。
ちなみに学名表記の上で、記載者名に括弧が付いているものは、最初に記載された時に、違うGenus として記載されたと言う意味になる。
その後、Genus )が見直され、別属となっても、種小名及び記載年はそのまま表記するのだ。

以下、再び朝倉彰先生の談。

Eupagurusは現在で言うところの Pagurusです(昔は Dardanus のことを Pagurus と言っていましたので)。
ややこしい話だが、以前はホンヤドカリ属(現在で言うところの Pagurus)のことを Eupagurus と呼んでいて、現在のヤドカリ属(現在で言うところの Dardanus )の事を Pagurus と読んでいた訳だ。
Dardanus と言えば、現在はヤドカリ上科Superfamily Coenobitoidea )、ヤドカリ科Family Diogenidae )だから、Superfamily をまたいで名称が変更されたと言うことだ。
ちなみに現在では Eupagurus と言うGenus )は無い。
朝倉彰先生の話とダブるが、ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )自体は、1905年
Alcock博士により属の新設Generic composition )が成された。
つまり、100年以上前に、既に学会で発表されていたのだから驚きだ。
以後、100年経過した後、19881989に、ヤドカリ研究の世界的権威である McLaughlin博士Haig博士の手により7種が新種として記載され,、また、Pylopaguropsis zebra を始めとする3種が Pylopaguropsisであるとした訳だ。

ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )であるか?それとも他属であるか?の見分け方だが、我々素人が簡単に " その大きな鍬のような右鋏脚を見れば解かるじゃないか・・・ " 等と思ってしまうが、実際はそんな単純なものではなく、鰓の数が13対であること雌が有対の第一腹肢をもつことのみが本属であると判別できる材料になるそうだ。

ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )の生息分布だが、フランス領ポリネシアからマリアナ海溝域(八丈島を含む伊豆諸島周辺も入る)にかけての中部太平洋、沖縄に多くの種が見られるが、それほど生息域が狭いGenus ではないらしい。

P. teevana は東太平洋ガラパゴス諸島から、P. garciai は、東太平洋のイースター島から、P. atlantica は名前のとおり大西洋からです。
P. pustulosa はアフリカのソマリアから、P. magnimanus はインド洋から、P. keijii は広く西太平洋からアフリカ東岸まで、P. lewinsohni は太平洋のほかに紅海からも知られます。
したがってこれらを総合すれば、属としては世界の海に分布します。
(以上青字部分朝倉彰先生談)

ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )の食性についても朝倉彰先生に伺ってみた。
(僕が、Pylopaguropsisは " " を食まないので、雑食とは言え、藻食ではなく肉食・腐肉食に寄っているのではないか?と質問したのに対し)
まず最初に、海水中に「」は生息しません。
よく観賞魚を飼育している方がコケと言っていますが、真のコケ、つまり蘚苔植物は海水中にはいません。
それはすべて藻類をみているのです。
大半のヤドカリは雑食性で、
Diogenes のように縣濁物食のものもいますが、純粋な肉食性というのは知られていません。
ただし
Pylopaguropsis の食性の研究は、私が知る限り、ありません。
との御返事を頂いた。
ちなみに Diogenes とはツノヤドカリ属のこと。 Diogenes の第二触角は蛾の触角のように網状になっており、その触角を振り回して餌を摂る。
懸濁物とは、水中に浮遊している細かい粒子のことで、ここでは浮遊している小さな生物のことを指す。
以前からゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis数種を本水槽で飼育しているが、例えば魚が死んだ時等、真っ先にやってくるのがゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisのヤドカリ達だ。
その大きな右鋏脚を器用に使って屍骸を解体し、貪り喰っている。
ヤドカリ達の黒山のヤド集り(?)が出来るが、その殆どがゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisだったりする。
普段、LRの陰等に居て、照明が点灯している間は殆ど見かけることが出来ない彼らが、この時ばかりは豹変するのだ。
Nano-Riffaquariumでも同様だ。
Nano-Riffaquariumの場合、水槽自体が小さいのでヤドカリ達は丸見えではあるが、顆粒状の魚用飼料を数粒水槽に入れようものなら、一斉にゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis達がワラワラ出て来る。
他のヤドカリ達よりも、大分 " 匂い " に敏感なような気がする。

さて、話をウチのNano-Riffaquariumに戻そう。
水槽に投入したゼブラヤドカリ属の1種 Pylopaguropsis sp. は、1匹が甲長10mm程とやや大きな個体。
もう1匹は甲長2mm程の小さな個体だ。 (ヤドカリの大きさを示す " 甲長 " と言う言葉があるが、 " 甲長 " とは前甲と後甲を含む、頭胸甲の長さのことだ。)
どちらも割りと穏やかな性格のようで、水槽前面の砂地部分に居ることが多く、水槽を覗きこんでもへっちゃらだ。
但し、同時に購入した雪風氏の個体は結構臆病なようなので、一概には言えないかも知れない。
少なくともウチに来た個体は笑ってしまうほど前面に出てくる。
 ← おかげで、この通り写真も撮り放題だ。


そして、更にその後もう1匹追加して、合計3匹投入となったのがムラサキゼブラヤドカリ Pylopaguropsis keijii
ムラサキゼブラヤドカリ Pylopaguropsis keijii は僕が個人的に一番好きなヤドカリだ。
何よりも、金色と言っても過言ではないその体色に、歩脚の紫色が映え、非常に美しい。
 ← こちらは右鋏脚が紫色のタイプ。

 ← こちらは右鋏脚が肌色のタイプ。
右鋏脚の色彩は、主にこの2タイプあるが、何故色彩変異があるのかは解からない。
もしかしたら、雌雄の差なのかも知れないが、調べた訳ではない。
どうも、肌色タイプの方が個体数は多いような気がする。
この色彩の差異は、若齢個体のうちから出ていて、甲長1mm程度の極小さな個体であっても、右鋏脚が紫色の個体も居るし、肌色の個体も居る。
これらが成体として成長してもその差異はそのまま残っているようだ。
本種に非常に良く似た色彩を持つ種に
Pylopaguropsis lemaitrei Asakura & Paulay, 2003 が居るが、眼柄の色彩が違う。
本種は眼柄が極淡い紫色で、紫色の縦ラインが入るが、 Pylopaguropsis lemaitrei の方は、濃い紫色だ。
ちなみに Pylopaguropsis lemaitrei の写真は Database of Crustacea
で見ることができる。
ここでは " Pylopaguropsis cf. keijii McLaughlin & Haig, 1989
" となっているが、List of the Hermitcrabs のNo.138の種がそうだ。
http://decapoda.free.fr/images/anomura/Pylopaguropsis_cf_keijii_RNG_896-16.jpg
↑ これが Pylopaguropsis lemaitrei の写真。
(上記WebのCopyrightはフランス国立海洋研究所Pylopaguropsis lemaitrei の写真のCopyrightはアメリカのフロリダ大学Gustav Paulay教授に帰属するので、決して二次利用しないように。)
話をムラサキゼブラヤドカリ Pylopaguropsis keijii に戻すが、この種はかなり臆病だ。
照明が点灯している間は全く表には出て来ない。
おまけにあまり大きくならない種なので、余計に観察し難い。
レイアウトしてあるLRを退かしてみると、3匹仲良く固まっていることが多い。
基本的に水槽内で
ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )達は、同種で固まっていることが多いが、自然下でも同様のようで1匹見つかると、付近に数匹居るそうだ。
3匹とも、甲長は同じくらいで、約4mm程だ。

そして、勿論アデヤカゼブラヤドカリ Pylopaguropsis speciosa
前半部で触れたように、計3匹。
 ← アデヤカゼブラヤドカリ Pylopaguropsis speciosa は、割と照明が点灯していても出て来る。
結構水槽前面にも来るし、おまけに色彩が派手なので、やけに目に付く。

先日、海の博物館奥野淳兒先生に取材に行った際、先生から譲って頂いた個体が居る。
 ← フルセゼブラヤドカリ Pylopaguropsis furusei Asakura, 2000
眼柄は黄色がかったオレンジ色で、第一触角と第二触角は透き通った紫色。
第二触角鞭状部や歩脚はオレンジ色で、かなり美しい。
奥野淳兒先生の研究室で、もう1匹飼育されていたが、そちらは甲長も1cmくらいはあったので、恐らく成体だと思う。
そちらは、右鋏脚がもう少し大きく、色も全体的にオレンジ色だった。
この個体は甲長5mm程度なので、恐らく若齢個体だろう。
じっくり育てて行きたい。

ちなみに本種は他のゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis )達よりも、更に機敏に動くような気がする。
水槽に投入すると、あっと言う間に宿貝から歩脚を伸ばし、あっと言う間にLRの陰に移動して行った。
そうは言っても、所詮狭い
Nano-Riffaquarium
の中なので、発見するのは容易いのだが。

ここで、疑問に思う方が居るかも知れない。
そう、あえてこの水槽にはケフサゼブラヤドカリ Pylopaguropsis fimbriata McLaughlin & Haig, 1989 は投入しなかったのだ。
本水槽にも、結構居るのだが、入れなかった。
それはケフサゼブラヤドカリ Pylopaguropsis fimbriata が今水槽に入れている他種よりも大きくなること。
そして、性格的にやや荒いような気がするからだ。
別に他のヤドカリを襲っているところを見た訳ではないが、本水槽で魚が落ちた時、真っ先に集って来るのがケフサゼブラヤドカリ Pylopaguropsis fimbriata 達なので、何となくそのようなイメージがある。
そこで今回は見合わせた訳だが、小さな個体を入手したら投入するかも知れない。
一応、ここに参考写真を貼っておく。
 ← ケフサゼブラヤドカリ Pylopaguropsis fimbriata 。 眼柄の青と眼球の黄色とのコントラストが美しく、長い歩脚がスタイリッシュで格好良いヤドカリであることは間違いない。

今のところ、Nano-Riffaquariumに入れたゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisは4種だが、ゼブラヤドカリ Pylopaguropsis zebra Henderson, 1893)とか、他の種が入手出来たら随時追加するつもりでは居る。

実のところ、他にもゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis以外のヤドカリは数種入れている。
 ← シダラミギキキヨコバサミ Pseudopaguristes shidarai Asakura, 2004 を2匹。
 ← カザリサンゴヤドカリ Calcinus lineapropodus Morgan & Forest, 1991 を7匹。
 ← 
ダンダラヒメヨコバサミ Paguristes jalur Morgan, 1992 を3匹。
これらのヤドカリは、只単に僕が好きな種達だ。
と言っても、肝心のゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisを襲うような種では困るので綺麗だと言ってもベニワモンヤドカリ Ciliopagurus strigatus Herbst, 1804 等は避けた。
なにせベニワモンヤドカリ Ciliopagurus strigatus
は自然下で生きたタカラガイFamily Cypraeidae )やイモガイFamily Conidae )等を襲い、その貝を宿貝と利用するし、水槽内でも他のヤドカリの宿貝を奪うところを何度も目撃しているから。

給餌は1日1回、顆粒状の魚用飼料を与えている。
正確に言えば、後日特集予定のソリハシコモンエビ属Genus Urocaridella )のテナガエビやベニハゼ属Genus Trimma )達に給餌しているので、それらの残餌をヤドカリ達に始末をさせる・・・くらいに考えている。
このサイズの給餌量としては正直少々多い気もするが、ニシキウズガイFamily Trochidae )やタカラガイFamily Cypraeidae )も入っているからか、藻類は全く生えない。
本水槽よりも、余程ガラス面や底砂表面が綺麗に維持出来ている。
尤も、本水槽の換水を毎日しているので、本水槽から抜いた水で、総水量の70%程度を毎日換水してはいるのだが。

参考までに、ウチの水槽レイアウトを御覧頂こう。
 ← 正面から見たところ。
下に土台となるLRを三日月型に組み、枝状LRを斜めに立てている。
下側の土台部分はケーブっぽくしてあるので、ゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsisダンダラヒメヨコバサミ Paguristes jalur 等、岩盤の裂け目を棲み家としている種の良い隠れ家になる。
対して、枝状LR部分はレッドレッグハーミット Paguristes cadenati
カザリサンゴヤドカリ Calcinus Lineapropodus 等、サンゴ礁生息種が登り、其々巧く棲み分けが出来るように考えた。
今のところ、サンゴ礁生息種達はこの枝状LRに盛んに登り、僕の思惑通りの行動をしてくれている。
 ← こちらは上から見たところ。
ケーブ部分も、正面から奥側が見えるように組んであるので、LRを動かさなくてもある程度は観察し放題。

念の為システムも書いておくが(「ぽえぽえ・・」のNano-Riffaquariumの話を読んだ方なら、説明する必要はないだろうが)、ナチュラルシステムでの飼育である。
底砂は7cm程度敷いてあり、良質のLRを入れ、濾材を抜いた外掛けフィルターを水流用に使っている。
イソギン飼育の時と唯一違うのは、照明。
イソギン飼育では強力な照明が必要だったのでメタハラ(スーパークール150W)を使用していたが、ヤドカリには不必要(むしろ害になるかも知れない)なので、7Wのクリップ式の蛍光灯(白球と青球が一緒になったもの)に変更した。
このような簡単な装備で飼育が楽しめるし、ヤドカリ好きなら、是非やってみて欲しい水槽だと思う。


POSTSCRIPT

さてこの水槽、ある日の深夜、照明を消灯して3時間程経った後、何気なく蛍光灯を再点灯させてみた。
普段、隠れがちな種を確認するためだ。
すると、水槽内(主にガラス面)に無数のメイオベントスMeiobenthos 環形動物(小さなゴカイ類)が居て、非常に驚いた。
本水槽よりも、遥かにメイオベントスMeiobenthosの密度は高いような気がする。
これらが、ヤドカリ達のゾエア幼生Zoea )なのか、それとも只の橈脚類(ケンミジンコ)なのかは調べてないが、兎に角凄い数だ。
こんなに小さな水槽でも、きちんとナチュラル水槽として機能しているんだなぁと、感慨深いものがあった。


最初の目的から完全に方向転換してしまったとは言え、このヤドカリ水槽はかなりのお気に入りだ。
美しいゼブラヤドカリ属Genus Pylopaguropsis
が目の前で見れるのだから・・・。


TEXT ADVISER

朝倉 彰先生 千葉県立中央博物館
駒井智幸先生 千葉県立中央博物館
奥野淳兒先生 千葉県立中央博物館分館 海の博物館


NEXT

次回は、ソリハシコモンエビ属Genus Urocaridella )をお送り致します。

2004年3月16日
Genus Pylopaguropsis

          
鮮やかな色彩とスタイリッシュなプロポーション、大きな右鋏脚とのアンバランスさが魅力・・・ゼブラヤドカリ属